インターネットは軍事ネットワークだったのか?


 現在われわれがインターネットと呼ぶネットワークの原型を作ったのが、'60年代後半に研究が始まったARPANETです。米国防総省の部局であるARPA(現在はDARPAと名称が変更になっている)が資金スポンサーになり。大学が中心となって開発されました。ちなみに実際に4つのノード間、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、SRI(Stanford Reserch Institute) International、カリフォルニア大学サンタバーバラ校、ユタ大学の間でネットワークが動作し始めたのは、'69年の12月です。
 インターネットは軍事ネットワークから発展したという俗説がありますが、これは大きな間違いです。これは、米国政府が考える安全保障とは何かということがわかっていないことに由来する誤解と言えるでしょう。米国国防総省は、最新鋭の兵器とは、技術のピラミッドの頂点に位置するものであり、それを支えるためには、広い技術的な裾野が必要だと考えています。まず、基礎となる最新の技術を開発し、その基礎をベースにさらに積み重ねていくために、大学や研究所に対し莫大な基礎研究費を与えます。その成果の一つがインターネット技術だったというわけです。
 たとえば、ソフトウェア品質のための基礎研究の最大のスポンサーは、過去も現在も国防総省です。ソフトウェアの品質を高めるといったソフトウェア生産技術全体の向上は、まわりまわって、たとえば兵器に搭載される制御ソフトウェアの品質に跳ね返ってくると考えるのです。
 また、人工知能の最大のスポンサーも国防総省です。先のイラクと「多国籍軍」との戦争であった砂漠の楯/嵐作戦のときは、人工知能の分野で開発されてきた配分最適化技術を用いたエキスパートシステムを用いて、莫大な物資を的確にそして迅速に運びました。数億〜数十億ドルの経済効果があると言われています。これらの技術は、現在では物流分野のシステムに広く応用されています。
 このように直接的に兵器を作る技術でなくても、裾野を広げることによって、最新の技術を応用できること自体が、強い米国の原動力だと考えるのです。とくに'60年代は、米国より先に世界初の人工衛星が旧ソ連によって打ち上げられるという「スプートニクショック」の時代でもありました。あわてて米国が人工衛星を打ち上げようにも、基礎的な研究が満足に行われていなかったため、片っ端から失敗するという苦い経験があります(この辺のストーリーは映画「ライト・スタッフ」で詳しく描写されています)。このころは、基礎研究から新しい技術を育てない限りは、旧ソ連に遅れを取るというあせりがありました。
 このあたりの詳しい話を始めるとキリがないので、興味のある人は、次の本を参考にしてください。インターネット関連の本は星の数ほどありますが、正しい情報をもとに書かれているものは〜ハヤリ物の悲しい運命だとも言えるでしょうが〜残念ながらほんの僅かです。この本はきちんとインターネット像を捉えています。強く推薦します。

『インターネットが変える世界』
著者=古瀬幸広、廣瀬克哉共著
岩波新書
価格=630円
ISBN 4-00-430432-6


また、Neil Randallが書いた「インターネットヒストリー」(O'REILLY)に、Larry Roberts の興味深いインタビューが載っています。彼はARPAからの予算で研究を開始したときのディレクターで、軍から資金を引き出した張本人です。この張本人が「通信技術の発展という観点から重要であるにもかかわらず、民間企業がどこもお金を出してくれないので軍にこの話を持ち込んだ。しかし、目は常に一般市民の方を向いていた」ということを言っています。もちろん、そこでできたインターネットの前進であるARPANETは軍事ネットワークではありません。でも確かにインターネットは核戦争でも生き延びることが可能なネットワークであることは事実です。

一つ前へ